かけがえなき文化・アート 

二〇二一年三月十一日の早朝である。震災とroomsを題材に、文化・アートにまつわる「かけがえのなさ」について、あれこれ書き進めようと思う。

菅野 龍太

福島民報社産業振興部長

 福島市で暮らし、福島県内で日刊紙を発行する新聞社に震災前から勤めている。十年前のあの日、巨大な揺れと放射能への恐れに古里は凍り付いた。身にしみて分かった。形あるものはいつか壊れ、失われると。家屋は、田畑は、港は、堤は泥水に飲まれ姿を変えた。なだれ落ちた土塊が道を塞ぎ、振動は亀裂となって大地を砕いた。極寒の潮流にもがき、底冷えの仮設住宅でぽつねんと、幾多の命が奪われた。あの人は目の前に、もう戻らない。過ぎし日の笑顔が夢の中でだけ輝く。

 それでも、この十年、被災地には復興のつち音が確実に響き、新たな命が次々に生まれ出た。体細胞が知らず識らず入れ替わっていくように、流転こそ世の常態なのだ。残酷に響くかもしれない。しかし、失われた人やものにこだわり続ければ、悲しみ、時には恨み憎しみという負の感情と常に向き合わざるを得ないだろう。どこで耳にしたか、「執着を捨てよ」との教えが胸をよぎる。

 我々は西洋近代的なニュアンスでの永遠や永久という言葉に浸りすぎ、飼いならされすぎた。目の前にあるもの、人は必ず消える。それは、たった一瞬後かもしれない。実存とは何とはかなく、あっけないものか。だからこそ、何かに出会うという行為が、実にかけがえなく、輝いてみえる。震災を経て、本来は茶道に由来するという一期一会の真の意味に一歩近づいた気がした。

 年に二度、東京都内で開かれるroomsはまさに一期一会を体現する場所といえる。ファッション、デザインから工芸品に至るまで数百の出展を数える。日本の今を切り取った文化の祭典といって過言であるまい。来場者は気ままに会場内を散策し、作家の想像と創造の意志の下に育まれた展示物との出会いを楽しむ。

▲2020年出展の様子 /「フクシマ・クラフトマン・シップ」と題し、福島民報社が県内の3事業者を推薦

 福島民報社は全国の新聞社で唯一、roomsへの出展を続けてきた。昨年は「フクシマ・クラフトマンシップ」と題し、福島県内で培われてきた「ものづくり」を紹介した。木工品、陶芸品など原発事故による風評に耐えて、つないだ技術ばかりだ。たくましい職人魂に心を打たれた方も少なくなかったのではないか。

  知の巨人と言われるカール・マルクスが今、再び注目を集めている。大量にあふれでたもの(商品)、市場メカニズムに人が支配されてしまい、さらには、ものをつくる機械設備の一部に人がなり果てるという資本主義社会の図式に警告を発した傑物と解釈している。その思索は、つゆも輝きを失っていない

▲2019年出展の様子 / アーティスト澁木智宏氏とのコラボレーションでは、新聞を羊毛でフェルト化した

2019年出展の様子 / 新聞の見出しを考えるワークショップを実施

人は機械ではない。温かな手仕事、ものづくりとの一期一会を大切にしたいと、災厄節目の朝に思う。

Written by
福島民報社産業振興部長 菅野 龍太

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